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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)844号 判決

原告

ブックローン株式会社

右代表者代表取締役

工藤俊彰

原告

ブックローン出版株式会社

右代表者代表取締役

工藤俊彰

右両名訴訟代理人弁護士

本橋光一郎

右訴訟復代理人弁護士

城内和昭

被告

株式会社アガツマ

右代表者代表取締役

戸所正敏

右訴訟代理人弁護士

松本昭幸

右輔佐人弁理士

宮崎一男

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙第二目録及び同第三目録記載の六角筒柱の連結によるかな文字、絵模様、数字等の知育玩具(以下「被告製品一」及び「被告製品二」という。)を製造販売してはならない。

2  被告は、前項記載の各物件を廃棄せよ。

3  被告は、原告ブックローン出版株式会社(以下「原告ブックローン出版」という。)に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、被告の負担とする。

5  3及び4項について仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告ブックローン出版の著作権に基づく請求

(一) 原告ブックローン出版は、別紙第一目録記載の知育玩具(以下「ぺんたくん」という。)の製作を発意し、昭和五三年三月頃から同五八年五月頃にかけて、同社の社員訴外薬師院実美(以下「薬師院」という。)をして、その職務上、「ぺんたくん」を創作させ、その頃「ぺんたくん」を原告ブックローン出版の名義で公表し、製造している。

(二) 「ぺんたくん」は、多角筒柱のブロックを、自由に連結したり回転したりすることによって、かな文字による単語、文章、数字及び絵模様を作成して、子供達が遊びながら語いを広げ、文字や数字等を学習し、使用することができる形態を有し、かつ、次の特徴を備えた文芸、美術及び学術の範囲に属する著作物であり、かつて存在したことのない極めて創作性の強い特異な著作物である。

(1) 多角筒柱の角筒面には、平仮名、数字及び絵模様が記載されていること。

(2) 文字の場合、一個の多角筒柱には、一つの行の平仮名文字が記載されていること。

(3) 各平仮名文字は、ア段は円、イ段は八角、ウ段は六角、エ段は五角、オ段は四角の各背景の図形の中に白抜きで記載されていること。

(4) 各背景の図形の色は、各行ごとに異なること(同一行は同一の色)。

(5) 素材自体の色は、白色系であること。

(三) 被告は、昭和六〇年一一月から被告製品一を製造販売し、その後被告製品二を製造販売しようとした。

(四) 被告製品一及び二は、「ぺんたくん」をそのまま複製したものではないとしても、「ぺんたくん」とは形状において基本的に何ら変わりがなく、別表のとおり「ぺんたくん」に酷似しているから、「ぺんたくん」に依拠し、その具体的表現の一部を変えたにすぎないことが明白であり、したがって、被告が被告製品一及び二を製造販売することは、原告が「ぺんたくん」について有する著作権(変形権及び翻案権)を侵害するものである。

(五)(1) 被告は、原告ブックローン出版が有する「ぺんたくん」の著作権(変形権及び翻案権)を侵害することを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和六〇年一一月から同六一年一二月までの間に、少なくとも総売上高三〇〇〇万円相当の被告製品一を製造販売し、少なくともその三分の一に当たる一〇〇〇万円の利益を取得した。したがって、原告ブックローン出版は、著作権法一一四条一項の規定により、右と同額の損害を被ったものと推定される。

(2) 原告ブックローン出版は、被告製品一の販売により「ぺんたくん」の販売が減少したため、右(1)の一〇〇〇万円の損害のほかに、少なくとも「ぺんたくん」の販売による得べかりし利益一〇〇〇万円を取得することができず、右と同額の損害を被った。

(六) よって、原告ブックローン出版は、被告に対し、著作権(変形権及び翻案権)に基づき、被告製品一及び二の製造販売の差止め及びその廃棄並びに右(五)の不法行為による損害金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い(損害賠償請求については、右の著作権侵害に基づく請求、後記実用新案権一及び二の侵害に基づく請求並びに不正競争防止法に基づく請求は選択的請求)を求める。

2  原告ブックローン出版株式会社の実用新案権に基づく請求

(一) 原告ブックローン出版は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権一」及び「本件実用新案権二」といい、その考案を「本件考案一」及び「本件考案二」という。)を有している。

(1) 本件実用新案権一

登録番号  第一六四〇三五三号

考案の名称 5角筒柱連結知育玩具

出願日  昭和五六年五月二〇日

公告日  同六〇年一〇月九日

登録日  同六一年六月一一日

(2) 本件実用新案権二

登録番号  第一六四〇三五四号

考案の名称 5角筒柱によるかな文字知育玩具

出願日  昭和五六年五月二〇日

公告日  同六〇年一〇月九日

登録日  同六一年六月一一日

(二)(1) 本件考案一の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和六〇年五月二四日付手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書一」という。)の実用新案登録請求の範囲(1)は、本判決添付の実用新案公報一(以下「本件公報一」という。)の該当項記載のとおりであって、その構成要件は、次のとおりである。

イ 角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した五角筒柱を、

ロ その端面に設けた可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した。

ハ 五角筒柱連結知育玩具。

(2) 本件考案一の作用効果は、次のとおりである。

イ 本件考案一の五角筒柱連結知育玩具は、各五角筒柱を適当に結合し、分離しあるいは結合状態で回転して、角筒面が互いに一致したところで確実に停止することができるように構成されているものであって、幼児が使用して遊ぶ場合、結合と回転という別個の動作を必要とするため、ばらばらの状態にある従来の積み木の知育玩具に比して、興味を持って文字、数字、絵模様を習得することができる。

ロ 本件考案一は、五角筒柱であることにより、角筒面に、例えば、五〇音の「あ行」「か行」等の文字を表現することができ、一個で一行の五音を、一八個の濁音、拗音等を含む平仮名すべてを表現することができるから、幼児が興味を持ってかな文字を習得することができる。

ハ 後片付け等の場合には、結合して一本の柱とすることができるから、ばらばらになって紛失する等のおそれがない。

(三)(1) 本件考案二の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和六〇年五月二四日付手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書二」という。)の実用新案登録請求の範囲(1)は、本判決添付の実用新案公報二(以下「本件公報二」という。)の該当項記載のとおりであって、その構成要件は、次のとおりである。

イ かな文字五〇音の各行を各別に角筒面に表現した各五角筒柱を、

ロ その端面に設けた、可回転にして互いの角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で着脱自在に連結できるように構成した、

ハ 五角筒柱によるかな文字知育玩具。

(2) 本件考案二の作用効果は、次のとおりである。

イ 本件考案二は、五〇音のかな文字を、五角筒柱の角筒面に各行ごとに各別に表現し、五角筒柱は、その両端面に設けたスナップ機構によって、着脱自在にして可回転に、しかも、互いの角筒面が一致したところで停止するように構成したものであるから、平仮名すべてを表現するために七五個の積み木を必要としていた従来の積み木に比し、一八個という少ない五角筒柱で平仮名全部を表現することができ、幼児をして、たくさんの積み木の中から単に選び出すという煩雑さを少なくするうえ、分解し、更には結合して回転させるという別な動作をさせることにより、楽しみながらある一定の規則のもとにかな文字あるいはその組合せを習得させることができる。

ロ 後片付け等の場合には、結合して長い柱状とすることができるから、ばらばらになって紛失するおそれがない。

ハ 各文字の背景を、各行は色別に、各段は形別にすれば、その文字の占める位置を容易に知ることができ、その習得のうえに更に効果を上げることができるばかりでなく、文字、色、形と広い範囲にわたっての知育にも役立つ。

(四) 被告は、昭和六〇年一一月から被告製品一を製造販売し、その後被告製品二を製造販売しようとした。

(五)(1) 被告製品一の構造は、次のとおりである(以下に記載の番号は、別紙第二目録添付の別紙図面の番号を指す。被告製品一につき以下同じ。)。

イ 角筒面に、別紙第二目録添付の展開図面の平仮名文字、算用数字、絵模様あるいは記号を転写印刷した同目録添付の別紙図面の形状をした六角筒柱を、

ロ その凸側端面15に設けた円盤状凸状部16と、16に設けた係合辺縁部17、凹溝18、突起12、13、凹側端面7に設けた円形状凹陥部8、U字形弾性片11、突起12、13、凹部14で構成された、可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した。

ハ 六角筒柱連結知育玩具。

(2) 被告製品一の構造は、本件考案一及び二の構成要件をすべて充足し、その作用効果も、本件考案一及び二の作用効果と同一である。

(六)(1) 被告製品二の構造は、次のとおりである(以下に記載の番号は、別紙第三目録添付の別紙図面の番号を指す。被告製品二につき以下同じ。)。

イ 角筒面に、別紙第三目録添付の展開図面の平仮名文字、算用数字、絵模様あるいは記号を転写印刷した同目録添付の別紙図面の形状をした六角筒柱を、

ロ その底面8に設けた半円球状突起25と凸状部9と、9に設けた結合周縁部11、凹溝10、板体14に設けた半円球状凹溝24、円形状の凹陥部15'、U字形の弾性片19'、突起20'で構成された、可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した。

ハ 六角筒柱連結知育玩具。

(2) 被告製品二の構造は、本件考案一及び二の構成要件をすべて充足し、その作用効果も、本件考案一及び二の作用効果と同一である。

(七)(1) 被告は、本件実用新案権一及び二を侵害することを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和六〇年一一月頃から同六一年一二月末までの間に、少なくとも総売上高三〇〇〇万円相当の被告製品一を製造販売し、少なくともその三分の一に当たる一〇〇〇万円の利益を取得した。したがって、原告ブックローン出版は、実用新案法二九条一項の規定により、右と同額の損害を被ったものと推定される。

(2) 原告ブックローン出版は、被告製品一の販売により本件実用新案権一及び二の実施品たる「ぺんたくん」の販売が減少したため、右(1)の一〇〇〇万円の損害のほかに、少なくとも「ぺんたくん」の販売による得べかりし利益一〇〇〇万円を取得することができず、右と同額の損害を被った。

(八) よって、原告ブックローン出版は、被告に対し、本件実用新案権一及び二に基づき、被告製品一及び二の製造販売の差止め及びその廃棄並びに右(七)の不法行為による損害金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

3  原告らの不正競争防止法一条一項一号に基づく請求

(一) 原告ブックローン出版は、「ぺんたくん」を製造して原告ブックローンに販売し、原告ブックローンは、これを全国の消費者に訪問販売しているものである。

(二)(1) 「ぺんたくん」は、請求の原因1(二)記載のとおり、形態上の特異性を有する商品である。

(2) 原告ブックローン出版が製造し、原告ブックローンが販売した「ぺんたくん」は、昭和五八年五月一日から同五九年一二月末日までに約八万七〇〇〇セット(一セット三万四〇〇〇円)にのぼる。

(3) 原告ブックローンは、昭和五八年五月頃から、三億一五一〇万円の費用をかけて、スポットコマーシャル、番組提供によるコマーシャル及びワイドショーの中での生コマーシャル等のテレビコマーシャルにより「ぺんたくん」を宣伝し、また、「ぺんたくん」は、同年四月二九日頃、新聞記事に、原告ブックローン出版が製造し、原告ブックローンが販売するものとして写真入りで取り上げられ、それ以降も、新聞記事や新聞広告によっても何度も、その形態及び原告ブックローンの商品であることが紹介、宣伝された。

(4) 原告ブックローンは、全国で約一五〇〇名の訪問販売員を使用して販売活動をしているが、販売員は、各家庭を訪問するに際し、「ぺんたくんのブックローンです」と述べ、「ぺんたくん」の商品カタログを配布し、「ぺんたくん」の商品説明をしている。

(5) このような「ぺんたくん」の形態上の特異性及び宣伝広告により、「ぺんたくん」は、遅くとも昭和五九年一一月頃には、その形態自体が原告らの商品であることを示す表示として周知のものとなった。

(三) 被告は、昭和六〇年一一月から被告製品一を製造し、これを玩具問屋、玩具小売商人及び一般消費者に販売しており、更に、その後被告製品二を製造販売しようとした。

(四) 被告製品一及び二の形態は、前記1(四)のとおり、「ぺんたくん」とほぼ同一である。このため、被告製品一及び二は、「ぺんたくん」と誤認混同され、又は誤認混同されるおそれがあり、そして、その材料が粗悪であり、加工方法も粗雑であるばかりか、「ぺんたくん」よりも廉価に販売され、又は廉価に販売されるそおれがあるため、原告らは、営業上の利益を害されている。

(五)(1) 被告は、不正競争防止法一条一項一号所定の行為に該当することを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和六〇年一一月頃から同六一年一二月末までの間に、少なくとも総売上高三〇〇〇万円相当の被告製品一を製造販売し、少なくともその三分の一に当たる一〇〇〇万円の利益を取得した。したがって、原告ブックローン出版は、右と同額の損害を被ったものと推定される。

(2) 原告ブックローン出版は、被告製品一の販売により「ぺんたくん」の販売が減少したため、右(1)の一〇〇〇万円の損害のほかに、少なくとも「ぺんたくん」の販売による得べかりし利益一〇〇〇万円を取得することができず、右と同額の損害を被った。

(六) よって、原告らは、被告に対し、不正競争防止法一条一項一号の規定に基づき、被告製品一及び二の製造販売の差止め及びその廃棄を、原告ブックローン出版は、被告に対し、同法一条の二第一項の規定に基づき、右損害金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1(一)  請求の原因1(一)の事実のうち、原告ブックローン出版が「ぺんたくん」を製造していることは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同1(二)の事実のうち、「ぺんたくん」が、(1)ないし(5)記載の平仮名、図形及び色彩から成り立っていることは認め、その余の事実は否認する。

(三)  同1(三)の事実は、認める。

(四)  同1(四)及び(五)の事実は、否認する。

2(一)  請求の原因2(一)の事実は、認める。

(二)  同2(二)の事実のうち、本件明細書一の実用新案登録請求の範囲(1)の記載が、本件公報一の該当項記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認する。

(三)  同2(三)の事実のうち、本件明細書二の実用新案登録請求の範囲(1)の記載が、本件公報二の該当項記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認する。

(四)  同2(四)の事実は、認める。

(五)  同2(五)ないし(七)の事実は、否認する。

3(一)  請求の原因3(一)の事実のうち、原告ブックローン出版が、「ぺんたくん」を製造していることは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同3(二)の事実のうち、(1)及び(5)の事実は否認し、その余の事実は知らない。

(三)  同3(三)の事実のうち、被告が、昭和六〇年一一月から被告製品一を製造し、これを玩具問屋及び玩具小売商人に販売しており、更に、その後被告製品二を製造販売しようとしたことは認め、その余の事実は否認する。

(四)  同3(四)及び(五)の事実は、否認する。

三  被告の主張

1  原告ブックローン出版の著作権に基づく請求は、以下のとおり理由がない。

(一) 請求の原因1(二)(1)ないし(5)に記載された「ぺんたくん」の特徴は、次に述べるとおり、ごくありふれたものにすぎず、思想又は感情を表現したものということができないから、「ぺんたくん」は、著作権の対象にならない。

(1) 「ぺんたくん」の五角筒柱面には、平仮名文字が記載されているが、文字として普通に用いられる形式において記載されているにすぎない。

(2) 「ぺんたくん」は、一個の五角筒柱に一つの行の平仮名文字が記載されているが、これも普通に用いられる配列方法に従って記載されているにすぎない。

(3) 「ぺんたくん」は、各文字が四角等の背景に白抜きで記載されているが、右背景に用いられた図形も、文字を白抜きで記載することも共にありふれている。

(4) 「ぺんたくん」は、各背景の図形の色を各行ごとに違えているが、これもありふれている。

(5) 「ぺんたくん」は、素材の色が白色であるが、素材の色を白色にすることもありふれた方法である。

(二) 多角筒柱の面に文字を書き、文字の背景に特定の図形を用いたり、特定の色彩によって色分けする教育用玩具は、原告ブックローン出版が「ぺんたくん」の創作を完了したと主張する昭和五八年五月一日以前から存在した(乙第九号証及び第一八号証)。「ぺんたくん」は、右公知の教育用玩具に類似するものであって、創作性を有しない。

(三) 被告製品一及び二を製造販売する行為は、次に述べるとおり、原告ブックローン出版が「ぺんたくん」について有する変形権及び翻案権を侵害しない。

(1) 「ぺんたくん」は、本件実用新案権一の実施品であるところ、原告ブックローン出版は、実用新案登録出願手続の過程で、拒絶理由通知を受け、実用新案登録請求の範囲を五角筒柱に限定したものであり、更に、六角筒柱の角筒面に、文字、数字、絵模様等を表示する知育玩具が「ぺんたくん」の製作開始以前から公知であった(乙第一八号証)ことに照らせば、仮に「ぺんたくん」が創作性を有するとしても、その創作性は、「ぺんたくん」の構成を五角筒柱にしたところにあるというべきである。これに対して、被告製品一及び二は、いずれも六角筒柱の構成であって、「ぺんたくん」の有する創作性の範囲外のものであるから、被告製品一及び二を製造販売する行為について変形権及び翻案権侵害が問題になる余地はない。

(2) 「ぺんたくん」と被告製品一及び二とは、次に述べるとおり、類似していないから、被告製品一及び二を製造販売する行為は、原告ブックローン出版が「ぺんたくん」について有する変形権及び翻案権を侵害するものではない。

イ 「ぺんたくん」は、五角筒柱から構成されており、一つの五角筒面に「あいうえお」等平仮名の一行が配列されている点に特徴が存するのに対し、被告製品一及び二は、六角筒柱から構成されており、一つの六角筒面に「あいうえお」等の平仮名及びこれに対応した「あ行」等の各行を表わす文字が記載されているところに特徴があり、幼児が各行の名前を覚えることができるという「ぺんたくん」にない作用を有するものであって、両者は、類似しない。

ロ 「ぺんたくん」の文字の背景に配された図形は、図形としてもその配列方法としてもありふれたものであるから、何ら創作性のないものであり、また、仮に右の点に創作性があるとしても、被告製品一及び二とは図形の配列方法を異にするものであるから、この点を根拠として両者が類似しているとすることはできない。

ハ 「ぺんたくん」は、文字の背景の図形の色を各行ごとに異なるように配列しているが、これも、ありふれた方法であって、何らの創作性もなく、しかも、被告製品一及び二は、「ぺんたくん」とはその色の配列方法を異にしているから、この点を根拠として両者が類似しているとすることもできない。

ニ その他、原告が、別表4ないし7において「ぺんたくん」と被告製品一及び二とが類似するとしてあげる点は、いずれも何らの創作性を有しない部分についてのものであって、両者が類似するとの根拠とはなりえないものである。

2  原告ブックローン出版の実用新案権一及び二に基づく請求は、以下のとおり理由がない。

(一)(1) 本件明細書一の実用新案登録請求の範囲(1)の記載のうち、スナップ機構については、機能的、抽象的に記載されているのみで特定されておらず、確定することができないから、右スナップ機構は、本件明細書一の実施例記載のものに限定されるべきである。そうすると、本件考案一の構成要件は、次のとおりとなる(以下に記載の番号は、本件公報一の番号を指す。本件考案一につき以下同じ。)。

イ 角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した五角筒面と、

ロ 各五角筒に左の構成からなる底面8を設置する。

A 外方に凸状部9を設置し、その根元は凹溝10となっていて、係合周縁部11を形成する。

B 凹溝10には、角筒面に対応した位置に突起12を形成する。

ハ 次のCないしF又はC'ないしF'のいずれかの構成から成立している板体14(蓋2)を段部13に嵌合固着するよう設置する。

すなわち、

C 中央部に底面8の凸状部9が嵌合する大きさの円形状の凹陥部15を形成する。

D 凹陥部15の周壁16には、五角形の各辺に対応する位置に、更に辺縁方向に湾入部17を形成する。

E 湾入部17には、湾入壁18から内方に向かうU字形の弾性片19が角筒面ごとに突設されていて、この弾性片19の前面は、周壁16の面と一致するよう形成する。

F 弾性片19の各々の前面に、その間に凹部21を形成する突起20、20を設置する。

又は、

C' 中央部に底面8の凸状部9が嵌合する大きさの円形状の凹陥部15'を形成する。

D' 凹陥部15'の外周壁22から、独立した突出壁16'を設ける。

E' 外周壁22から内方に向かうU字形の弾性片19'が角筒面ごとに突設されていて、この弾性片19'の前面は、突出壁16'の面と一致するよう形成する。

F' 弾性片19'の各々の前面に、その間に凹部21'を形成する二つの突起20'、20'を設置する。

(2) 被告製品一は、仮にその構造が請求の原因2(五)(1)のとおりであるとしても、次のとおり、本件考案一の技術的範囲に属しない。

本件考案一の構成要件イは、右(1)記載のとおりであるところ、実用新案登録出願手続の経過及び出願当時の公知技術に照らすと、本件考案一は、五角筒柱に限定されるものというべきである。すなわち、本件明細書一の出願当初の実用新案登録請求の範囲は、五角筒柱に限定していなかったが(乙第一号証)、出願人である原告ブックローン出版は、出願について昭和六〇年三月一日付で拒絶理由通知を受け、同年五月二四付で意見書(乙第三号証)を提出し、拒絶理由通知に引用された「考案は、いずれも立方体であるから、結合する面の軸に対する周面は4面であって、この4面には例えばひら仮名の各行の文字を表わすことはできないものである。これに対し、本考案は5角筒柱であるから、この周面には、例えばひら仮名の角筒柱行(「各行」の誤記と認められる。)の文字を表すことができる。この本考案における角筒面が5であることが、イ考案、ロ考案(注・引用された考案)と異なり、重要な意味を有することは、作用効果からみて明らかなところであり、本考案の5角筒柱であるということは考案構成の必須条件であり」と主張した。右事実に加え、六角筒柱の角筒面に、文字、数字、絵模様等を表示することが、出願当時公知であったことを考慮すると、本件考案一は、五角筒柱以外の多角筒柱を除外し、五角筒柱に限定して登録されたものというべきである。

これに対して、被告製品一は、原告ブックローン出版の主張によっても六角筒柱であることが明らかであるから、本件考案一の構成要件イを充足しない。

(3) 被告製品二は、仮にその構造が請求の原因2(六)(1)のとおりであるとしても、次のとおり、本件考案一の技術的範囲に属しない。

イ 本件考案一が五角筒柱の構成に限定されるものであることは、右(2)に述べるとおりであるところ、被告製品二は、原告ブックローン出版の主張によっても六角筒柱であることが明らかであるから、本件考案一の構成要件イを充足しない。

ロ 被告製品二は、本件考案一の構成要件ハも充足しない。本件考案の構成要件ハのCないしFは、被告製品二の構造と掛け離れているので、同C'ないしF'とを比較するに、本件考案一では、凹溝10には角筒面に対応した位置に突起12を形成し、弾性片19'の前面にその間に凹部21'を形成する突起20'、20'を設置することにより、嵌合状態の底面8と板体14(蓋2)に対し、回転力を与えると、突起12が、弾性片19'の前面に設置された突起20'、20'に設けられた凹部21'にはまり込んで、角筒面が一致したところで停止するのに対し、被告製品二では、底面8に一個の半円球状突起25を設けること、板体14(蓋2)の端部に各辺に対応する六個の半円球状凹溝24を形成することにより嵌合状態の底面8と板体14(蓋2)に対し回転力を与えると、半円球状突起25が半円球状凹溝24にはまり込むことにより、角筒面が一致したところで停止するものであって、角筒面が一致したところで停止させる技術手段を異にするから、本件考案一の構成要件ハを充足しない。

(二)(1) 本件明細書二の実用新案登録請求の範囲(1)の記載は、本件考案一では、「角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した5角筒面」とする点が、「かな文字50音の各行を各別に角筒面に表現した各5角筒柱」となっているほかは、本件考案一の実用新案登録請求の範囲(1)の記載と同一である。そうすると、本件考案二の構成要件は、次のとおりとなる。

ニ かな文字五十音の各行を各別に角筒面に表現した各五角筒柱と、

ホ 各五角筒に左の構成からなる底面8を設置する。

A 外方に凸状部9を設置し、その根元は凹溝10となっていて、係合周縁部11を形成する。

B 凹部10には、角筒面に対応した位置に突起12を形成する。

へ 次のCないしFの構成から成立している板体14(蓋2)を段部13に嵌合固着するよう設置する。

C 中央部に底面8の凸状部9が嵌合する大きさの円形状の凹陥部15を形成する。

D 凹陥部15の周壁16には、五角形の各辺に対応する位置に、更に辺縁方向に湾入部17を形成する。

E 湾入部17には、湾入壁18から内方に向かうU字形の弾性片19が角筒面ごとに突設されていて、この弾性片19の前面は、周壁16の面と一致するよう形成する。

F 弾性片19の各々の前面に、その間に凹部21を形成する突起20、20を設置する。

(2)イ 本件考案二の構成要件ニは、前記2(一)(2)と同様に五角筒柱の構成に限定されるところ、被告製品一及び二は、六角筒柱であるから、右構成要件ニを充足しないものである。

ロ 被告製品二は、前記2(一)(3)ロと同様に、本件考案二とはスナップ機構を異にするから、前記構成要件ヘを充足しない。

(3) したがって、被告製品一及び二は、本件考案二の技術的範囲に属しない。

3  原告らの不正競争防止法に基づく請求は、以下のとおり理由がない。

(一) 「ぺんたくん」の形態は、原告らの商品表示として周知性を有しない。すなわち、複数個から構成される多角筒性を着脱及び回動自在に構成し、各多角筒柱の各面に、文字や絵を記載することによって、熟語の構成や絵合せを可能にして、幼児に熟語や絵を理解させるための知育玩具は、「ぺんたくん」発売以前から公知であったのであるから、「ぺんたくん」には、創作性、形態の特異性は存しない。また、原告らが「ぺんたくん」をテレビ、出版物によって宣伝したのは、短期間であったし、回数も少なかったのであるから、「ぺんたくん」の形態は、原告らの高品表示として周知性を有するには至っていない。

(二) 原告らは、「ぺんたくん」の販売に当たり、「ぺんたくん」なる商標を用いており、また、出版物による広告、カタログの記載、テレビによる宣伝等もすべて「ぺんたくん」なる商標を使用し、かつ、「ぺんたくん」が原告ブックローン株式会社の販売商品であることを宣伝していた。これに対して、被告は、被告製品一及び二の商品自体並びにカタログ、セットで販売されている教材及び包装に、「めばえっこ」なる商標を付して販売している。また、「ぺんたくん」は、専ら、訪問販売方式で販売されており、小売店、百貨店等での店頭販売をしていない。これに対して、被告製品一及び二は、小売店、百貨店等での店頭販売方式によっている。更に、「ぺんたくん」は、高額な商品である。以上の点を考慮すると、「ぺんたくん」と被告製品一及び二とは、誤認混同されるおそれは存しない。

四  原告ブックローン出版の反論

1  著作権に関する被告の主張について

(一) 著作物の成立要件として著作権法があげている「思想」又は「感情」とは、哲学的又は心理学的概念としてのもののようにせまく解釈すべきではなく、「考え」又は「気持ち」程度の広い意味に解すべきであるところ、「ぺんたくん」は、平仮名文字を幼児が理解しやすい順序と方法で、秩序だてて学習させ、認識理解させるための知育玩具を作ろうという考えのもとに創作されたものであるから、「思想」又は「感情」を表現したものということができる。

(二) 著作物は、創作性を有することが本質的要素であるが、ここにいう創作性とは、著作者の個性が著作物の中に現れていれば足りるところ、「ぺんたくん」は、原告ブックローン出版において既存の平仮名文字の立方体形式の知育玩具を土台にして、これにブロック回転の新知見と着脱自在のアイデアを加えて、全く新しい作品を完成させたものであるから、十分な創作性を有する。

(三) 「ぺんたくん」は、「あいうえお」、「かきくけこ」等の一つの行の平仮名文字を付した五角筒柱であるのに対し、被告製品一及び二は、「あいうえお」、「かきくけこ」等を「ぺんたくん」と同様に五角筒面にそのまま付したうえ、「あ行」、「か行」等の文字を付した一角筒面を追加したものであって、右一角筒面が追加されている点で異なっているが、右一角筒面は、文字の組合せによって単語を作る場合には何の意味も持たないものであるから、被告製品一及び二は、形状、機能等のいずれの点からしても、「ぺんたくん」と具体的に変わりがなく、これに依拠して作られたものであることが明らかである。五角筒柱の著作物から六角筒柱の著作物に転換した場合にも、変形権及び翻案権の侵害となりうるところ、右のように、被告は、五角筒柱の「ぺんたくん」に依拠し、これを転換変形して六角筒柱の被告製品一及び二を作り、販売領布しているのであるから、「ぺんたくん」について原告ブックローン出版が有する変形権及び翻案権を侵害している。

2  被告の実用新案権に関する主張について

(一) 被告製品一及び二は、いずれも六角筒柱の構成であるが、その機構、例えば、ブロックに着脱、回転、ストップ等の各機能を持たせるための機構は、詳細にわたって本件考案一及び二の実施態様と同一であり、また、玩具の目的、従来技術の問題点の解決手段も同一である。したがって、被告製品一及び二は、六角筒柱の構成であっても、本件考案一及び二の技術的範囲に属する。

(二) 被告製品二のスナップ機構は、底面8において半円球状突起25を有していて、板体14においては角筒面の各々に対する位置に半円球状凹溝24が設けられている点で本件考案一及び二と異なっているが、これは、本件考案一及び二のスナップ機構の同一端面上で突起及び凹溝の位置を移動しただけであって、その差異は徴差であるから、両者は、スナップ機構としては均等である。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一著作権に基づく請求について

一〈証拠〉によると、請求の原因1(一)の事実を認めることができる(原告ブックローン出版が「ぺんたくん」を製造していることは、当事者間に争いがない。)。

二原告ブックローン出版は、「ぺんたくん」は、文芸、美術及び学術の範囲に属する著作物である旨主張し、被告は、その著作物性を否定するので、まず、この点について判断する。

1  著作権法二条一項一号は、著作、物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義している。したがって、ある作品が著作物であるというためには、その作品自体に思想又は感情が創作的に表現されていなければならない。

2  そこで、この点を「ぺんたくん」について考察するに、「ぺんたくん」が別紙第一目録記載のとおりの構造であることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び「ぺんたくん」であることに争いのない検甲第一号証並びに前掲甲第五号証及び第九〇号証によると、「ぺんたくん」について、次の事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(一) 「ぺんたくん」は、昭和五三年三月から同五八年五月までの間に、薬師院により、三才から六才の幼児に言葉の獲得や平仮名文字の認識等をさせるに適当な玩具を作るという目的で考案されたものであって、一個のブロックに正方形の五角面があれば、平仮名五〇音の伝統的な配列である「あ行」、「か行」等の各行のうち一行を一個のブロックに表現することができ、結果として、一八個の五角箇柱があれば、濁音、拗音、促音等を含めた平仮名七五文字をすべて表現することができること及び五角筒柱の筒面以外の二面に着脱、回転等の構造を持たせれば、平仮名文字を自由につないで言葉が作れること等の基本案に基づいた玩具である。

(二) 「ぺんたくん」の作製に当たっては、幼児が小学校に就学した後に混乱を起こさないため、平仮名文字の書体を教科書体を基本にすることとし、かつ、平仮名の各段を形により区別することができるよう、文字の背景に、あ段は円、い段は八角というように五種類の形を用い、また、色で各行を識別することができるよう幼稚園で日常使用されている色を用いて各行ごとに色を違えるなど、幼児が容易に平仮名を認識できることが目標とされた。右のほか、「ぺんたくん」の作製に当たっては、音節の理解、図形識別の体験及び数の基礎概念を認識理解させることを目的として、絵合せ、迷路遊び及び数遊びの五角筒柱を含めることとされた。

(三)(1) 「ぺんたくん」は、右(一)及び(二)の方針に基づき作製された幼児用の知育玩具であって、その外形的形状は、別紙第一目録記載の展開図面1及び2並びに同目録添付の別紙図面記載のとおりであり、教科書体に準拠した平仮名五文字(ただし、一部の五角筒柱については一文字又は三文字のみ)が各行ごとに記載された五角筒柱のブロック一八個、迷路遊び用の五角筒柱のブロック五個、絵合せ用の五角筒柱のブロック五個、数字遊び用の五角筒柱のブロック二個及び絵と数字が記載された五角筒柱のブロック四個からなり、これらのブロックの上端面と下端面とをいわゆるスナップ機構により着脱かつ回転自在に結合することができ、適宜着脱かつ回転させることにより平仮名三字又は二字の言葉を作ることができるものである。

(2) また、右の平仮名が記載されたブロックは、文字の背景の図形が、あ段が円、い段が八角、う段が六角、え段が五角、お段が四角になっており、その背景の色が、あ行がピンク、か行が赤、さ行がオレンジ、た行が黄色、な行が黄土色、は行が黄緑、ま行が緑、や行が空色、ら行が青、わ行が紫、ん行が赤紫となっていて、各行ごとに異なっている。更に、各ブロック自体の地の色は、白色であり、文字も、背景の図形の中に白抜きで表現されている。

(3) 迷路遊び用のブロック五個は、これを全部合わせて展開図にすると、簡単な迷路になる形式になっており、絵合せ用ブロック五個は、五角筒柱の各面に鯨、眼鏡などの一部分が記載されていて、これを二個ないし三個合わせると、鯨、眼鏡などの完全な絵が完成する形式になっている。更に、数字遊び用ブロック二個及び絵と数字が記載されたブロック四個は、数字又は動物の数などで〇から一〇までが表現されているものである。

右(三)認定の事実によれば、「ぺんたくん」は、五角筒柱の各ブロックの上端面と下端面とをいわゆるスナップ機構とし、これにより、ブロックを着脱かつ回転自在に結合して、文字を組み合わせて言葉を作ること、絵を組み合わせて迷路を形作ること、絵を組み合わせて完全な一つの絵にすることができるものであるところ、それ自体は、あくまでも「ぺんたくん」の形状及び構造が奏する機能であって、技術的思想の体現とみることはできても、著作権法二条一項一号にいう「表現」ということはできない。しかしながら、右(三)認定の事実によれば、「ぺんたくん」は、各段ごとに図形を変え、かつ、各行ごとに色を変えた簡単な図形の中に、白抜きで、あ行、か行等の各行の五文字を一個の五角筒柱ブロックに記載し、また、右同様のブロックに動物や迷路の絵の各部分を描き、更に、数字や動物の絵などで数を表示し、更にまた、これらを一つのセットとしたものであって、ここには、右法案にいう「表現」が存するものということができる。そこで、右の表現について更に検討するに、右の表現のうち、各段ごとに図形を変え、かつ、各行ごとに色を変えた簡単な図形の中に、白抜きで、教科書体に準拠したあ行、か行等の各行の五文字を一個の五角筒柱ブロックに記載している点は、いわば、「あいうえお」等の五〇音をそのまま順番に表現したのと同程度のものであり、また、背景の図形及び色彩も、ありふれたものであって、特異なものではないから、これらの表現をもって、右法条にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということはできない。そして、前示表現のうち、五角筒柱のブロックに動物や迷路の絵の各部分を描き、また、数字や動物の絵などで数を表示し、更に、これらを一つのセットにした点は、その表現内容に照らし、右法条にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」とみる余地が存するものと認められる(ただし、「ぺんたくん」が幼児用知育玩具として大量生産されるものであることは、原告ブックローン出版の主張自体から明らかであるから、この点において「ぺんたくん」が著作権法の保護の対象になりうるか否かについて疑問があるが、この点は暫く措く。)。

三そこで進んで、「ぺんたくん」と被告製品一及び二とを対比してみるに、「ぺんたくん」と被告製品一及び二とは、後述のとおり、いわゆる外面的表現形式のみならず、内面的表現形式も類似していないものと認められるから、被告製品一及び二は、「ぺんたくん」に依拠したものとは認められない。すなわち、「ぺんたくん」について著作物性を認める余地のある表現は、前示表現のみであるところ、他方、〈証拠〉によると、「ぺんたくん」の販売前既に、円筒柱、立方体及び六角筒柱に平仮名、数字等を記載した知育玩具が考案されていたことが認められ、右認定の事実によると、結局、「ぺんたくん」の表現において著作物性が認められるのは、五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載し、これをセットにした点にあるといわざるをえない。これに対して、被告製品一及び二は、六角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載し、これをセットにしたものであって、「ぺんたくん」とはその表現形式を異にするものと認められる。また、「ぺんたくん」が別紙第一日目録記載のとおりの構造を有し、被告製品一及び二が同第二目録及び第三目録記載のとおりの構造を有することは当事者間に争いがないところ、右争いのない各目録の記載によると、「ぺんたくん」の五角筒柱ブロックに描かれた絵と被告製品一及び二の六角筒柱ブロックに描かれた絵とは、二、三の例外を除き、数字を表す絵を含めて描かれている対象が異なっていること、同一の対象物を描いたものも、その表現は全く異なっていること及び「ぺんたくん」に存する迷路のブロックに相当するものは、被告製品一及び二には存しないことが認められる。以上の事実を総合すると、「ぺんたくん」と被告製品一及び二とは、いわゆる外面的表現形式のみならず、内面的表現形式においても類似していないものというべきである。したがって、被告製品一及び二は、「ぺんたくん」に依拠したものということはできない。

四以上によれば、被告の被告製品一及び二の製造販売行為は、原告ブックローン出版の有する「ぺんたくん」の変形権及び翻案権を侵害するものであるとは認められないから、原告ブックローン出版の著作権に基づく請求は、理由がない。

第二実用新案権に基づく請求について

一原告ブックローン出版が本件実用新案権一及び二を有していること並びに本件明細書一及び二の実用新案登録請求の範囲(1)の記載がそれぞれ本件公報一及び二の該当項記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二成立に争いのない甲第三号証(本件公報一)及び第四号証(本件公報二)によると、本件考案一及び二の構成要件は、次のとおりであると認められる。

1  本件考案

(一) 角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した五角筒柱を、

(二) その端面に設けた可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した、

(三) 五角筒柱連結知育玩具。

2  本件考案二

(一) かな文字五〇音の各行を各別に角筒面に表現した各五角筒柱を、

(二) その端面に設けた、可回転にして互いの角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で着脱自在に連結できるように構成した、

(三) 五角筒柱によるかな文字知育玩具。

三被告製品一及び二の構造が別紙第二目録及び第三目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

四本件考案一と被告製品一及び二とを対比する。

1 本件考案一の構成要件(一)にいう「五角筒柱」は、以下のとおり、文字どおりの五角筒柱を意味するものというべきである。すなわち、前掲甲第三号証(本件公報一)によると、本件明細書一の実用新案登録請求の範囲(1)の項には、「角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した5角筒柱」(本件公報一の一頁一欄二行から三行まで)及び「5角筒柱連結知育玩具」(同一頁一欄五行から六行まで)と、本件考案一の多角筒柱の構造が五角筒柱であることを明記しており、また、考案の詳細な説明の項及び願書添付の図面には、本件考案一が五角筒柱以外の多角筒柱を含むものであることをうかがわせる記載が全く存在せず、専ら、五角筒柱の構成のみが記載されていることが認められたばかりか、〈証拠〉によると、原告ブックローン出版は、本件考案一について、当初、実用新案登録請求の範囲の記載を「角筒面に絵模様、数字、文字等を表示した角筒柱を、その端面に設けた可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した角筒柱連結知育玩具。」として出願したところ、右出願について昭和六〇年三月一日付で拒絶理由通知を受け、同年五月二四日付意見書を提出して、拒絶理由通知に引用された「考案は、いずれも立方体であるから、結合する面の軸に対する周面は4面であって、この4面には例えばひら仮名の各行の文字を表わすことはできないものである。これに対し、本考案は5角筒柱であるから、この周面には、例えばひら仮名の角筒柱行(「各行」の誤記と認められる。)の文字を表すことができる。この本考案における角筒面が5であることが、イ考案、ロ考案、(注・引用された考案)と異なり、重要な意味を有することは、作用効果からみて明らかなところであり、本考案の5角筒柱であるということは、考案構成の必須の条件であり」と主張するとともに、同日付手続補正書をもって実用新案登録請求の範囲を前一の争いのない実用新案登録請求の範囲に補正したものであることが認められる。以上認定の事実によれば、本件考案一の構成要件(一)にいう「五角筒柱」は、文字どおりの五角筒柱を意味するものであることが明らかである。

2  これに対して、被告製品一及び二の構造を表示するものであることに争いのない別紙第二目録及び第三目録の記載によると、被告製品一及び二は、六角筒柱の構造であることが明らかである。したがって、被告製品一及び二は、本件考案一の構成要件(一)を充足しないものというほかはない。

五本件考案二と被告製品一及び二とを対比する。

本件考案二の構成要件(一)にいう「五角筒柱」は、以下のとおり、文字どおりの五角筒柱を意味するものというべきである。すなわち、前掲甲第四号証(本件公報二)によると、本件明細書二の実用新案登録請求の範囲(1)の項には、「かな文字50音の各行を各別に角筒面に表現した各5角筒柱」(本件公報二の一頁一欄二行から三行まで)及び「5角筒柱によるかな文字知育玩具」(同一頁一欄六行)と、本件考案二の多角筒柱の構造が五角筒柱であることを明記しており、また、考案の詳細な説明の項及び願書添付の図面には、本件考案二が五角筒柱以外の多角筒柱を含むものであることをうかがわせる記載は全く存在せず、専ら、五角筒柱の構成のみが記載されていることが認められ、右認定の事実によると、本件考案二の構成要件(一)にいう「五角筒柱」は、文字どおりの五角筒柱を意味するものというべきである。

これに対して、被告製品一及び二は、前示のとおり六角筒柱の構造であるから、本件考案二の構成要件(一)を充足しないものといわざるをえない。

六以上によれば、被告製品一及び二は、本件考案一及び二の技術的範囲に属しないから、原告ブックローン出版の本件実用新案権一及び二に基づく請求は、理由がない。

第三不正競争防止法に基づく請求

前認定の事実によれば、「ぺんたくん」の形態の特徴的な部分は、五角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載し、これをセットにした点にあるのに対し、被告製品一及び二は、六角筒柱に平仮名、数字及び絵等を記載し、これをセットにしたものであるから、両者は、その形態を異にするものである。また、「ぺんたくん」の五角筒柱ブロックに描かれた絵と被告製品一及び二の六角筒柱ブロックに描かれた絵が数字を表す絵を含めて全く異なっていること、「ぺんたくん」に存する迷路のブロックに相当するものが被告製品一及び二に存在しないことも、前認定のとおりである。そうすると、被告製品一及び二の形態は、「ぺんたくん」の形態に類似するとは認められない。のみならず、〈証拠〉、被告製品一であることに争いのない検甲第二号証並びに「ぺんたくん」、被告製品一及び二に関する前示事実関係を総合すると、「ぺんたくん」は、小学校入学前の幼児を対象とする五角筒柱のブロックからなる知育玩具であって、絵本八冊等とセットにして、昭和五八年五月から同六一年七月まで一セット三万四〇〇〇円で、それ以降は一セット二万八〇〇〇円でそれぞれ訪問販売されていること、「ぺんたくん」のセット全体の容器、ブロック及び絵本の容器等には、「ぺんたくん」なる商品名が大きく記載されており、また、雑誌や新聞の広告においても、ほとんどの場合、ブロック自体の写真などとともに、「ぺんたくん」なる商品名が大きく記載されていること、これに対して、被告製品一は、六角筒柱のブロックからなる知育玩具であって、ガイドブック三冊等とセットにして、昭和六〇年一一月から玩具問屋及び玩具小売商人に販売され(この点は、当事者間に争いがない。)、右小売商人等を通して、一セット一万二八〇〇円で一般消費者に販売されていること、被告製品二は、現在まで実際に販売されたことはないこと(この点は、原告らの主張自体から明らかである。)、被告製品一は、その容器やガイドブックに「めばえっこ」なる商品名が大きく記載されていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によると、「ぺんたくん」も被告製品一及び二も、幼児の保護者が慎重に考慮、選択して購入するであろうこと、その購入に当たって両者を識別することが容易であることが推認されるところ、右事実に前示両者の形態が類似しないことを併せ考えると、取引の実情のもとにおいて、両者が誤認混合されるおそれがあるとすることも困難である。したがって、原告らの不正競争防止法仁基づく請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

第四結論

よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官房村精一 裁判官小林正)

別紙第一目録

「もじかずはかせ ぺんたくん」

角筒面に、本目録添付の展開図面一、二のひらがな文字、数字、絵等を転写印刷した、別紙図面の形状をした五角筒柱を、その凸側端面14に設けた円盤状凸状部15と、15に設けた係合辺縁部16、凹溝17、突起18、凹側端面6に設けた円形状凹陥部7、U字形弾性片10、突起11、12、凹部13で構成された、可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で、互いに結合するように構成した、五角筒柱連結知育玩具。

五角柱ブロックの構造は別紙図面及びその説明書のとおり。

〈編注・二五二頁図〉

別紙図面の説明書

第1図は五角筒柱ブロックを凹側端面より見た斜視図。

第2図は五角筒柱ブロックを凸側端面より見た斜視図。

第3図は五角筒柱ブロックの縦断面図である。

五角筒柱の角筒面の一辺の長さは約四センチメートルである。

1、2、3、4、5角筒面

6凹側端面

7円形状凹陥部

8外周壁

9突出壁

10U字形弾性片

11、12突起

13凹部

14凸側端面

15円盤状凸状部

16係合辺縁部

17凹溝

18突起

〈編注・二五三頁上図〉

別紙第二目録

「めばえっこ」

角筒面に、本目録添付の展開図面一、二のひらがな文字、数字、絵等を転写印刷した、別紙図面の形状をした六角筒柱を、その凸側端面15に設けた円盤状凸状部16と、16に設けた係合辺縁部17、凹溝18、突起19、凹側端面7に設けた円形状凹陥部8、U字形弾性片11、突起12、13、凹部14で構成された、可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で、互いに結合するように構成した、六角筒柱連結知育玩具。

六角柱ブロックの構造は別紙図面及びその説明書のとおり。

〈編注・二五三頁下図、二五四頁上図〉

別紙図面の説明書

第1図は六角筒柱ブロックを凹側端面より見た斜視図。

第2図は六角筒柱ブロックを凸側端面より見た斜視図。

第3図は六角筒柱ブロックの縦断面図である。

六角筒柱の角筒面の一辺の長さは縦約3.5センチメートル横3.3センチメートルである。

1、2、3、4、5、6角筒面

7凹側端面

8円形状凹陥部

9外周壁

10突出壁

11U字形弾性片

12、13突起

14凹部

15凸側端面

16円盤状凸状部

17係合辺縁部

18凹溝

19突起

〈編注・二五四頁下図〉

別紙第三目録

添付の各図面に示すとおり、左記の構成よりなり、本目録添付の展開図面一、二のひらがな文字、数字、絵等を転写印刷した「六角筒柱連結知育玩具」

1 角筒面に文字、数字、絵模様を表示した六角筒面と、

2 各六角筒に左の構成から成立している底面を設置する。

(1) 外方に凸状部9を設置し、その根元は凹溝10となっている係合周縁部11を形成する。

(2) 一個の半円球状突起25を形成する。

3 次の各構成から成立している板体14(蓋2)を段部13に嵌合固着するよう設置する。

(1) 中央部に底面8の凸状部9が嵌合する大きさの円形状の凹陥部15'を形成する。

(2) 凹陥部15'の外周壁22から独立した突出壁16'を設ける。

(3) 外周壁22から、内方に向かうU字形の三個の弾性片19'を等間隔に突設し、この弾性片19'の前面は、突出壁16'の前面と一致するよう形成する。

(4) 弾性片19'の各々の前面に、一つの突起20'を設ける。

(5) 各辺に対応し、かつ、六角筒柱の回転時に半円球状突起25が順次係合する六個の半円球状凹溝24を板体14に形成する。

以上の構成からなる六角筒柱連結知育玩具。

別紙図面の説明書

第1図は蓋の斜視図

第2図は六角有底中空筒の斜視図

第3図は六角筒柱の上部斜視図

第4図は六角筒柱の底部斜視図

第5図は六角筒柱の断面図

3―7、23角筒面

8底面

9凸状部

10凹溝

11係合周縁部

14板体

15'凹陥部

16'周壁

19'弾性片

20'突起

22外周壁

24半円球状凹溝

25半円球状突起

〈編注・二五五頁〜二五八頁図表〉

別紙実用新案公報一

実用新案登録請求の範囲

(1) 角筒面に文字、数字、絵模様等を表示した五角筒柱を、その端面に設けた可回転にして角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で互いに結合するように構成した五角筒柱連結知育玩具。

(2) 上記のスナップ結合機構は、凹側における角筒面の各々に対する位置に弾性片を有していて、この弾性片には、凹部あるいは凸部があり、端面の凸側においては角筒面の各々に対する位置に、端面の凹側の弾性片の凹部あるいは凸部に係合する凸部あるいは凹部が設けられている実用新案登録請求の範囲第一項記載の五角筒柱連結知育玩具。

考案の詳細な説明

(産業上の分野)

本考案は、知育玩具の分野に属し、詳しくは、角筒柱を連結する形式の知育玩具に関するもので、その目的とするところは、五角筒柱の角筒面に表現された文字、数字、絵模様等を、五角筒柱を任意に組合せ、又は分離し、さらには組合わせたものを回転させることにより、文字、数字を並べ変え、あるいは絵模様を合わせる等して、動作に変化を与え、幼児が興味をもってこれらを習得させるにある。

(従来技術)

従来、幼児向けの知育玩具としては、昔ながらの約五cmで厚さ一cm程度の板片に、焼印、シルクプリント等で絵又は文字を表示したもの、また立方体ブロックに円形凸部と円形凹部とを設け、互いに連結すると共に、これに三角筒状ブロック、中柱状ブロック等を加えて連結し、例えば樹木等を形造るようにしたもの、さらには、立方体ブロックの三面には正方形の凸面、他の三面には正方形の凹面を設けると共に、これらの面に文字、数字等を表示して凸面と凹面とで連結するようにしたもの等があった。

(考案が解決しようとする問題点)

上記の従来のものの一番目のものにあっては、幼児が沢山の中から単に選び出して並べ、あるいは積び重ねるだけのものであり、二番目のものにあっては、選び出して組立てるという作動は入るものの、例えばひら仮名の各行を一つのブロックの同じ周面に表すことはできず、また各面が一致したところで確実に停止するようになっておらず、三番目のものにあっては、各面を一致させて連結することはできるとしても、このものを二番目のものと同様に、例えばひら仮名の各行を一つのブロックの同じ周面に表すことはできず、各ブロックは連結のまま回転することができない。

(問題点を解決するための手段)

本考案は、これらの点に鑑みて考案されたもので、文字、数字、絵模様等を表現した五角筒柱を、その端面における凹凸のスナップ機構によって互いに結合すると共に可回転にして角筒面が一致したところで停止できるように構成することにより、従来の欠点を解消し、幼児をして興味をもって文字、数字、絵模様等を習得できるようにしたものである。

(実施例)

以下、本考案の実施例をその図面について説明する。

五角筒柱Aは玩具としての機能は、中実であってもよいが、材料費の節減、幼児による扱い上の危険等を考慮して中空とした方がよく、図示のものは、有底の中空筒1と2とからなり、これらを固着して中空体としたものである。

そして、これらの中空体1及び蓋2は共にプラスチック成形物であって、中空体として形成された五角筒柱Aにおいては、底面及び蓋2は、いずれも端面と呼ばれるところである。

中空体1は、角筒面3、4、5、6、7の五角筒面と底面8とよりなり、角筒面は、例えば五cm角の正方形であり、底面8は正五角形である。

底面8には、外方に円盤状の凸状部9があり、この凸状部9の根元は、凹溝10となっていて係合周縁部11を形成し、この溝10中には、各角筒面3、4、5、6、7に対応した位置に、突起12がある。また中空筒1の開口部には段部13が形成されている。

蓋2は、中空筒1と同じ厚さの正五角形の板体14であって、この板体14には中央部に、底面8の凸状部9が嵌合する大きさの円形状の凹陥部15が形成されており、この凹陥部15の周壁16には、五角形の各辺に対応する位置において、さらに辺縁方向に湾入部17が形成されている。

この湾入部17には、湾入壁18から内方に向かうU字形の弾性片19が突設されていて、この弾性片19の前面は、周壁16の面と一致しており、その前面には2つの突起20、20があって、その間は凹部21となっている。このような構造を有する蓋2は、その板体14の周辺をもって中空筒1の段部13に嵌合固着されて、中空の五角筒柱A〔第7図〕が形成される。

第4図に示す蓋2'は、第1図に示す蓋2の凹陥部15の周壁16に相当する部分に弾性をもたせて底板8の凸状部9の嵌合を容易にするために、突出壁16'を外周壁22から独立して設けたもので、U字形の弾性辺19'は、外周壁22から突設されていて、その前面は、突出壁16'の前面と一致し、弾性片19'の前面には、2つの突起20'、20'と、その間に凹部21'のあることは第1図に示す蓋2の場合と同様である。

中空筒1と蓋2〔あるいは蓋2'〕との固着によって形成された五角筒柱Aの複数からなるものを結合するには、五角筒柱Aの底板8、すなわち、端面の凸状部9を、他の五角筒柱Aの蓋2〔あるいは蓋2'〕、すなわち端面の凹陥部15に嵌合するものであるが、この際凸状部9の係合周縁部11は、凹陥部15の周壁16にそって押込まれて、弾性片19の弾性に抗して突起20、20を越えることにより、突起20、20が凹溝10内に落ち込んで係合する。係合された2つの五角筒柱A、Aは、結合部の凸状部9と凹陥部15とにて回転するものであるが、五角筒柱A、Aの互いの角筒面が一致したところで凹溝10内の突起12は、弾性片19の弾性に抗して突出20を乗越えて、突起20、20の間の凹部21に嵌入して停止し、五角筒柱A、A互いの角筒面が一致した長い五角筒柱ができ上がる。

(考案の効果)

以上説明したように、本考案の五角筒柱連結知育玩具は、各五角筒柱を適当に結合し、分離し、あるいは結合状態で回転して角筒面が互いに一致したところで確実に停止することができるように構成されているから、幼児が使用において、ばらばらの状態にある従来の積木の知育玩具に比して結合と回転という別個の動作を必要とするため、遊びのうちに興味をもって文字、数字、絵模様等を習得することができる。

特に本考案は、五角筒柱であることより、角筒面に、例えば五〇音の“あ”行、“か”行等の各行の文字を表現することができ、一個で一行の五音、一〇個で清音四五音、一六個で濁音、半濁音、撥音を加えた七一音、一八個でさらに促音、拗音を加えた七五音のひらがなの総てを表現することができるから、幼児は興味をもって仮名文字を習得することができる。

また後片付け等の場合には結合して一本の柱状とすることができるから、ばらばらになって紛失する等のおそれがなく、知育玩具としては機能的で価値の高いものである。

図面の簡単な説明

第1図は本考案の知育玩具を構成する蓋の斜視図、第2図及び第3図は同上の有底中空筒の斜視図、第4図は第1図と異なる蓋の斜視図、第5図及び第6図は第2図及び第3図と同じ有底中空筒の斜視図、第7図は五角筒柱の断面図、第8図は2つの五角筒柱の連結状態を示す断面図、第9図は連結部の拡大断面図、第10図イ、ロは連結過程を示す部分断面図である。

A……五角筒柱、1……有底中空筒、2……蓋、3、4、5、6、7……角筒面、8……底面、9……凸状部、10……凹溝、12……突起、15……凹陥部、17……湾入部、19……弾性片、20……突起、21……凹部。

〈編注・二五九頁上図〉

別紙実用新案公報二

実用新案登録請求の範囲

(1) かな文字五〇音の各行を各別に角筒面に表現した各五角筒柱を、その端面に設けた、可回転にして互いの角筒面が一致したところで停止するスナップ機構で着脱自在に連結できるように構成した五角筒柱によるかな文字知育玩具。

(2) 各五角筒柱の角筒面に表現された五〇音のかな文字は、各行が互いに異色であって、各段は互いに異形であるバックの中に表現されている実用新案登録請求の範囲第1項記載の五角筒柱によるかな文字知育玩具。

考案の詳細な説明

(産業上の利用分野)

本考案は、知育玩具の分野に属し、詳しくは、かな文字五〇音の各行を各別に表現した五角筒柱を着脱自在に結合し、あるいな回転して五〇音のかな文字を習得するようにした知育玩具に関するものであって、その目的とするところは、幼児をして少ない部材を用いて楽しみのうちに五〇音のかな文字を習得させるにある。

幼児が三才位になると、一応言葉のやりとりができ、できるだけの言語形式や内容を覚えてくると、新たに未知の世界であった書き言葉の生活が開けてきて、書き言葉の最小記号単位である文字のとり込み、音、形を把握していくようになる。

ところで、日本語の表記の仕方には、

① 一音節、一文字の段階

「あいうえお、かきくけこ………」四五文字が分かればその一つ一つを組み合わせて、「あり」、「あき」………と単語を表現できる段階。

② 一音節、二文字あるいは三文字の段階

一音節二文字あるいは三文字で書きあらわす表記上の決まりを学ぶ段階。

③ 助詞「は」、「を」、「へ」のような特殊表記を学ぶ段階

という三つの段階があるといわれている。

(従来の技術)

しかしながら、従来からの五〇音の知育玩具としては、昔ながらの約五cmの正方形で厚さ約一cm程度の板片に焼印、またはシルクプリントによって五〇音の文字を印刷して表示したもの、また最近のものとしても、六面体(立方体)に単に表現したにすぎないものであった。

さらに、ブロック玩具の連結手段としては、立方体ブロック、三角柱状ブロック、円柱状ブロックに、円形凸部と円形凹部とを設け、この凹凸部にて互いに可回転に連結したもの、あるいは立方体ブロックの三面に正方形の凸面を、他の三面に正方形の凹面を設けると共に、これらの各面に文字、数字等を表示して、凸面と凹面とで連結するようにしたものがあった。

(考案が解決しようとする問題点)

上記従来のものの一番目、二番目のものにあっては、かな文字を表現していても、一つの板片あるいは六面体の同じ周面には、かな文字の各行の文字を表わすことはできず、これらのものは、沢山の中から単に選び出して並べ、あるいは積み重ねるだけのもので、他の操作が加わらないため楽しみも少なく、各個ばらばらで紛失のおそれがあり、三番目のものは、各ブロックを連結して例えば樹木等を形造るもので、ブロック面にかな文字を表現するものではなく、可回転の連結も特定の位置で停止する手段は講じられておらず、四番目のものも立方体ブロックの同じ周面には、かな文字の各行の文字を表わすことはできず、各ブロックは連結のまま回転することはできない。

(問題を解決するための手段)

本考案は、このような点に鑑みて案出されたもので、家庭でできる言語と文字の教育の段階を、上記の①の段階に設定し、この①の段階に重点をおきながら、②、③の段階をも十分に消化し得る機能をも考慮して、かな文字五〇音の表現を五角筒柱にもとめ、少ない部材をもってよくその機能を果たすようにしたものである。

すなわち、五cm角の平面を五面もった正五角筒柱で、正五角筒柱の平面をもった両端面は、互いの五角筒柱を連結するための可回転にして互いに角筒面が一致したところで停止するスナップ機構をもっており、この正方形の角筒面に文字が表現されている。

一 個の五角筒柱の角筒面には、五〇音のかな文字の「あ」行、「か」行等の各行の五文字、一〇個で清音の四五文字、一六個で濁音、半濁音、撥音を加えた七一文字、一八個でさらに促音、拗音を加えた七五文字の総てのかな文字を表現することができるものである。

すなわち、五角筒柱一八個にて、従来の積木75個分の機能を発揮することができるようにして、75個の扱いのむずかしさを一八個の扱いで解決したものである。

(実施例)

以下、実施例の図面について説明する。

先ず、五角筒柱の構成について説明すると、この五角筒柱は、第1図乃至第3図に示すように有底の五角中空筒1と蓋2とからなり、これらを固着して中空体を構成している。

五角中空筒1及び蓋2は、共にプラスチック成形物であって、この中空体を構成する底面及び蓋2は、五角筒柱において、いずれも端面と呼ばれるところである。

実施例では、五角筒柱は中空体であるが、知育玩具の機能としては、中実であっても差支えないものであり、材料費の節減、幼児の取扱上の危険などを考えた場合に中空体の方がよりよいものである。しかし、木材を利用する場合には、中実のものであることはもちろんであって、スナップ機構の連結部分は、プラスチック成形物で構成される。

五角中空筒1は、角筒面3、4、5、6、7の五角筒面と底面8とよりなり、角筒面は、例えば五cm角の正方形であり、底面8は正五角形である。

底面8には、円盤状の凸状部9があり、この凸状部9の根元には凹溝10があって、この凹溝10中には、角筒面3、4、5、6、7に対応した位置に突起11がある。また開口部には段部12が形成されている。

蓋2は、五角中空筒1と同じ厚さの正五角形の板体13であって、この板体13には、中央部に凹陥部14があり、この凹陥部14は、外周壁15より内側に独立して設けられた突条壁16によって囲まれていて、正五角形の板体13の各辺に対応した位置の外周壁15からは、U字状の弾性片17が突条壁16、16の間に突設しており、その前面には、二つの突起があり、その間に凹部19が形成されている。

突条壁16と弾性片17とによって囲まれた凹陥部14は、五角中空筒1の底面8に突設された突出部9が嵌合する大きさである。

このような構造を有する蓋2は、その板体13の周辺をもって五角中空筒1の段部12に嵌合固着され、中空の五角筒柱A(第4図)が形成される。

以上のように形成された五角筒柱Aの各々を互いにスナップ機構にて結合するには、五角筒柱Aの底面8、すなわち端面の凸状部9を、他の五角筒柱Aの蓋2、すなわち端面の凹陥部14に嵌合するのであるが凸状部9を、凹陥部14の周囲の突条壁16及び弾性片17の面に沿って押し込むと、弾性片17の弾性に抗して凸条部9が突起18、18を越えることにより凸状部9の根元の凹溝10中に突起18、18が係合し、互いに連結される。そして、互いの五角筒柱A、Aは、その軸の周りを回転するようになっているのであるが、五角筒柱A、Aは、互いの角筒面が一致したところで、凹溝10内の突起11が、弾性片17の弾性に抗して突起18をこえて、突起18、18の間の凹部19に嵌入して停止し、五角筒柱A、Aの互いの角筒面が一致した長い五角筒柱ができ上る。

このようにして連結される五角筒柱Aに対する五〇のかな文字の表現は、角筒面3、4、5、6、7に例えば「さ」行の五文字を第2図、第3図に示すように周方向に表示する。

この表示は、軸方向でも差支えない。同様にして、第7図イに示す清音四五文字を一〇個の各五角筒柱Aに、イに示す撥音、ロに示す濁音、半濁音を加えた七一文字を五角筒柱A16個に、さらにハに示す促音、拗音を加えた75文字を五角筒柱A18個の五角筒面にそれぞれ表現する。さらに、これに加えてニに示すような「、」点1個、「。」点1個と、わかち用のあき(空白)二個の計二二個の五角筒柱をもって一セットとし、簡単な文章を考えた場合に、さらに一セットを加えて全体として44個とすれば理想的なものとなる。

そして、このような文字の表現を、その文字が五〇音のどの位置をしめるかを分かり易くするために、文字のバックを「あかさたなはまやらわん」の各行Xは赤、橙、黄、青、紫の五色を基準とした色違いにし、また「あいうえお」の各段Yは円、八角、六角、五角、四角とその形を異にしたものとする。同様に、ロ、ハに示す濁音、半濁音の文字のバックも、各行Xにおいてはイと同じ色違いであり、各段Yにおいてはイと同じ形違いである。

以上のように表現文字のバックの色、形を異にした五角筒柱Aを互いに連結したものは、第8図に示されているが、例えば「あ」行と「か」行の五角筒柱A、Aを連結して回転するだけで、あか(赤)、あき(秋)、いか(烏賊)、いき(息)、いけ(池)、うき(浮)、えき(駅)、おか(丘)、おき(沖)、おけ(桶)等の単語ができる。

(考案の効果)

本考案は、五〇音のかな文字を、五角筒柱の角筒面に、各行毎に各別に表現し、五角筒柱は、その両端面に設けたスナップ機構によって着脱自在にして可回転に、しかも互いの角筒面が一致したところで停止するように構成したものであるから、従来の七五個の積木を必要としていた、清音、撥音、濁音、半濁音、促音、拗音の七五文字を一八個の少ない五角筒柱で表現することができ、幼児をして、沢山の積木の中から単に選び出すという煩雑さを少なくすると共に、単なる選択の外に、五角筒柱Aをスナップ機構によって結合し、又は分解し、さらには結合して回転させるという別な動作をさせることにより、楽しみながらある一定の規制のもとにかな文字、あるいは文字の組合わせを習得させることができる。

使用後の後片付け等の場合には、結合して長い柱状とすることができるから、ばらばらになって紛失するおそれがない。

また、各文字の表現のバックを各行は色別に、各段は形別にするようにすれば、その文字の占める位置を容易にしることができ、その習得の上にさらに効果をあげることができるばかりでなく、文字、色、形と広範囲にわたっての知育にも役立つものである。

図面の簡単な説明

図面は本考案の五角筒柱によるかな文字知育玩具についてのもので、第1図は、五角筒柱を構成する蓋の斜視図、第2図及び第3図は同上の有底五角中空筒の斜視図、第4図は五角筒柱の断面図、第5図は2つの五角筒柱の連結状態を示す断面図、第6図は連結部の拡大断面図、第7図イは五角筒中に表現した五〇音の清音、撥音の展開図、ロは同上の濁音、半濁音の展開図、ハは同上の促音と拗音の展開図、ニは同上の「、」点「。」点、及びわかち用のあきの展開図、第8図イ、ロ、ハ、ニは、第7図イ、ロ、ハ、ニの文字、記号を五角筒面に表現した五角筒柱を連結した状態の正面図である。

A……五角筒柱、1……五角中空筒、2……蓋、3、4、5、6、7……角筒面、8……底面、9……凸状部、10……凹溝、11……突起、13……板体、14……凹陥部、16……突条壁、17……弾性片、18……突起、19……凹部。

〈編注・二五九頁下図〉

別表

「ぺんたくん」と被告製品一及び二の類似点

「ぺんたくん」

被告製品一及び二

1

別紙展開図面(一)の1のとおり、一個の多角筒柱に一つの行の平仮名文字が記載され、50音の配列になっている。

別紙展開図面(二)の1のとおり、一個の多角筒柱に一つの行の平仮名文字が記載されるなど、50音の配列は「ぺんたくん」と全く同一である。

2

別紙展開図面(一)の1のとおり、文字の背景に図形を配して、50音の各段を図形によって識別させる方法をとっている。

別紙展開図面(二)の1のとおり、文字の背景に図形を配しており、配列の順序は「ぺんたくん」と異なるも、5段とも同一の図形を用い、50音の各段を図形によって識別させる方法は「ぺんたくん」と全く同一である。

あ段 正円

あ段 正方形

い段 正8角形

い段 正5角形

う段 正6角形

う段 正6角形

え段 正5角形

え段 正8角形

お段 正方形

お段 正円

3

文字の背景の各図形の色を50音の各行ごとに異なるようにし(同一行は同一色)、50音の各行を識別しうるようにしている。

各行に対応する色は「ぺんたくん」と異なるが、文字の背景の各図形の色を50音の各行ごとに異なるようにし、50音の各行を識別しうるようにしている点は全く同一(同一色が多い)。

あ行 ピンク

あ行 みどり

か行 あか

か行 そらいろ

さ行 オレンジ

さ行 あお

た行 きいろ

た行 むらさき

な行 おうどいろ

な行 ピンク

は行 きみどり

は行 あか

ま行 みどり

ま行 しゅあか

や行 そらいろ

や行 オレンジ

ら行 あお

ら行 うすいピンク

わ行 むらさき

わ行 ちゃいろ

ん  あかむらさき

ん  あかちゃいろ

4

別紙展開図面(一)の1のとおり、各ひらがな文字は、各背景の色図面の中に白抜きで記載する方法をとっている。

別紙展開図面(二)の1のとおり、「ぺんたくん」と全く同様に、各ひらがな文字が各背景の色図形の中に白抜きで記載されている。

5

別紙展開図面(一)の2のとおり、筒面に表現された絵の部分を2個ないし3個のブロックを結合することで一定の絵を完成させることによって、2音節又は3音節の言葉を完成させ、音声言語として音節を認識させる方法をとっている。

別紙展開図面(二)の2のとおり、完成される言葉の数や種類には違いがあるも、「ぺんたくん」と全く同一の方法をとっている。(絵合せのうち、2音節のはと、3音節のはさみ、からす、めがねは「ぺんたくん」と同じ言葉を使っている)。

2音節

2音節

さい

つる かぎ

はと

くつ ぞう

かば

きじ かさ

くま

はし ねこ

わし

しか はと

いぬ たか

3音節

3音節

くじら

でんわ あひる

はさみ

すずめ からす

からす

うさぎ ぱんだ

めがね

きつね ひつじ

ねずみ

めがね はさみ

とけい

6

別紙展開図面(一)の3のとおり、物の絵の数と数詞とを対応させて、数と数詞とを認識させる方法をとっている。

別紙展開図面(二)の3のとおり、「ぺんたくん」の上記方法と同一の方法をとっている。

7

ブロックの5面を色分けし、物の絵のブロックと数詞のブロックを、数が合致する面を同色として、色合せから数合せへと誘導して行く方法

「ぺんたくん」の上記方法と同一の方法をとっている。

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